Bilingual Culture Magazine

蔡國強展:帰去来

text_Ena Morita

「火薬」で描く過去最大作品が横浜美術館で展示中!

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夏休みが迫る7月上旬、横浜美術館にて世界が注目するアーティスト、蔡國強の個展が始まった。彼が作品作りに使用するものは絵の具でも筆でもない、火薬だ。彼の履歴で近年有名なのは、2008年の北京オリンピックの閉会式の花火の演出やグッゲンハイム美術館での展覧会などだろう。蔡の故郷である泉州は台湾の対岸に位置しており、幼い頃は自国と台湾の戦果を身近に感じて育った。 “人間と文明、人間と人間との関係において残酷な専制時代”の中で成長した事が、現在の作品制作に大きな影響を与えたとカタログで述べている。その火薬も中国では四大発明の一つとされ、戦闘の最前線でも使用されるものだ。しかし彼はその破壊力に創造と美を加え、美術作品へと変えたのだった。

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そんな彼が今回、日本国内で7年ぶりとなる個展を横浜美術館で開催中だ。タイトルは“蔡國強展:帰去来”。現在はニューヨークを拠点に活動している蔡だが、実は彼は1986年末に来日し、その後9年間を日本で過ごした。日本での日々は彼にとって、異文化の中での生活や、法の違いから火薬を入手するのが困難な環境など、試行錯誤の毎日だったようだ。本展のタイトルには“作家として自由な創作を開始した地である日本という原点に立ち返る”といった意味が込められている。

展覧会では計8点の作品が展示されている。ポスターなどのメインビジュアルにもなり、多くの人の目に触れているのは、99匹の狼のフィギュアの群れがガラスの壁に突入している作品《壁撞き》だろう。これは2006年に彼がドイツで個展を開いた際に発表されたものだ。彼は常に、展覧会を開催する地を取材して、現地のひとびとと協働で制作する。ここで作品のモチーフとなる狼はドイツで“森の神様”と謳われており、共同体意識、英雄的精神や勇気を表現している。また、99という数字は、中国の道教で「連続性」や「完結を知らずに先頭を進む」事を表す。そしてこのガラスの壁はドイツを東西に分けていた歴史の象徴、ベルリンの壁とほぼ同じ高さに作られている。蔡は、「見える壁は簡単に壊れるが、見えない壁を崩す事は難しい。」と、カタログのステートメントで述べている。この「見えざる壁」に挑み続ける狼の姿は人間社会を象徴しているかのようだ。

そして今回、彼の「火薬を用いた平面作品」の中で最も大きい作品である《夜桜》は、大きさ縦8×横24mの和紙に描かれ、横浜美術館のエントランス壁一面を占領し、訪れる人々を最初から魅了する。“日本の代表的な花であるということ、そしてこの小さな花に長い年月の間、たくさんの日本人の画家たちがとりこになるのだから、自分も挑戦してみたい”と彼は考えたようだ。この作品では彼自身初の試みとなる火薬に色加えて爆発させる技法を用いている。日本の火薬は不純物が少なく、和紙やカンヴァスに色をつけるための煙の量が少ないなど、時に苦労した場面もあったようだが、そのコントロールの難しいところにまた魅力を感じたのだろう。火薬に委ねて描かれたこの桜は自然的に、しかし芸術的に、人々を引き込む作品となった。

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その他の作品、《人生四季》《春夏秋冬》《朝顔》も火薬が用いられ、それぞれ最大限の魅力を観覧者に伝えている。

こうして現在ニューヨークを拠点に活動する彼にとって、今回、“原点に戻る”をテーマにした個展となっているが、彼はこれを単なる回帰ではなく、“波乱の旅への再スタート”も意味するとカタログで述べている。

○「蔡國強展:帰去来」
開催期間: 2015年07月11日(土)~2015年10月18日(日)
休館日: 木曜日
時間: 10:00~18:00(9/16、9/18は20:00まで/いずれも入館は閉館30分前まで)
入場料: 一般1,500円/大学・高校生900円/中学生600円/小学生以下無料
会場: 横浜美術館 神奈川県横浜市西区みなとみらい3-4-1
会場URL: http://yokohama.art.museum/
会場電話番号: 045-221-0300
アーティスト: 蔡國強
詳細URL http://yokohama.art.museum/special/2015/caiguoqiang/

○ 蔡國強 プロフィール
1957年、中国福建省泉州市生まれ。上海演劇大学で舞台美術を学び、86年末から日本に滞在、筑波大学で学ぶ。火薬を使った絵画で注目を集め、95年からニューヨークに活動拠点を移す。99年、ベネチア・ビエンナーレで国際金獅子賞、2008年の北京五輪では開、閉会式の視覚特効芸術監督を務めた。12年、高松宮殿下記念世界文化賞(絵画部門)を受賞。


○ Cai Guo-Qiang: There and Back Again
Date: July 11 (Sat.)-October 18 (Sun.), 2015
Open Hours: 10:00-18:00 (admission until 17:30)
*Evening hours: September 16 (Wed.), September 18(Fri.)
10:00-20:00 (admission until 19:30)
Closed: Thursday
Entrance Fee: Adult 1500yen, College/Highschool students 900yen, Jr highschool students 600yen, Under elementary school students For free.
*Free Admission for high school and younger student with vaild ID on every Saturday.(Student ID or student handbook required)
TEL: 045-221-0300
Artist: Cai Guo-Qiang
Yokohama museum of Art URL: http://yokohama.art.museum/
Exhibition URL: http://yokohama.art.museum/special/2015/caiguoqiang/

○ Cai Guo-Qiang ( b.1957, Quanzhou, Fujian Province, China ).
He was trained in stage design at the Shanghai Theater Academy, and his work has since crossed multiple mediums within art, including drawing, installation, video and performance. While living in Japan from 1986 to 1995, he explored the properties of gunpowder in his drawings, an inquiry that eventually led to the development of his signature explosion events. Cai was awarded the Golden Lion at the 48th Venice Biennale in 1999, and the 20th Fukuoka Asian Culture Prize in 2009, and the Praemium Imperiale in 2012. Additionally, he was also among the five artists honored with the first U.S. Department of State Medal of Arts award. He also served as Director of Visual and Special Effects for the Opening and Closing Ceremonies of the 2008 Summer Olympics in Beijing.

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